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宇都宮家庭裁判所 昭和55年(少)10968号 決定

少年 N・D(昭三八・三・一生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第一  公安委員会の運転免許を受けないで昭和五五年五月五日午前〇時四五分頃茨城県西茨城郡○○町大字○○××番地×先道路において自動二輪車(○ま××号)を運転した。

第二  同月四日午後一一時ころ、栃木県字都宮市○○××番地の×○○工業団地内○○工場西側路上において、同所に集合した暴走族○○の構成員らA以下約二八〇名と共謀のうえ、普通乗用自動車約七〇台及び自動二輪車など約三〇台に分乗し、同所を出発し、茨城県○△まで集団暴走する目的をもつて集団走行中、途中、茨城県笠間市○○××番地の×先約三〇〇メートル栃木県寄り付近の主要地方道○○線道路上において、同様の目的を持つた暴走族○△の構成員ら(普通乗用自動車約二〇台及び自動二輪車など約一五台運転)と合流したうえ、前記第一記載の時刻ころ、同記載の道路(通称○○交差点)を前記暴走族集団において、○○方面から○△方面に連なつて進行したが、その際、共同して右交差点の左右道路(国道××号線)を進行する車両の進入を阻止し自集団の通過を容易にする目的で(いわゆる「特攻隊」)、右交差点の進行方向左側に自らの運転する前記第一記載の自動二輪車を停止させ、同様に右交差点の左右に停止させた前記暴走族の他の数名の者とともに、自集団の信号無視による前記交差点通過を容易にさせたため、おりから前記国道××号線を○○方面に向けて普通乗用自動車を運転して進行し赤色の停止信号にしたがい、交差点手前で停止していたB、C外一名をして、右信号機の対面する信号が赤色から青色(進め)の信号に変つても正常に進行させることを妨げ、同所において停止を継続するのやむなきに至らしめ、もつて、共謀のうえ共同して著しく他人に迷惑を及ぼす行為をしたものである。

(適条)

第一の事実につき 道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一号。

第二の事実につき 同法第六八条、第一一八条第一項第三号の二。

(処遇)

少年は、昭和五三年三月、真岡市内の中学校を卒業後、同年四月、字都宮市内の私立高校(普通科)に入学したものの、頭髪を染色して登校したことなどから停学処分を受け、同月、同校を退学した者であるが、中学校に在学中から、暴走族と行動をともにし、その後、後述するように、同年一一月、道路交通法違反事件で保護観察に付されたことから、一時、暴走族から遠ざかつたものの、まもなく、再び暴走族に参加するようになり、本件非行に及んだものである。

本件非行は、上記のように、暴走族○○らが、字都宮市内○○工業団地から茨城県○△まで集団暴走行為をした際になされたもので、少年は、無免許で右暴走行為に加わり、いわゆる「特攻隊」として他の数名と交差点をふさぎ一般人の交通を妨害したものであり、通行を妨げられた一般人の迷惑・損害は多大なものがあり、少年の責任はきわめて重大であり、また、少年は、本件非行に際し使用した自動二輪車のナンバープレートを折り曲げてその判読を困難にし、罪証いん滅を図るなど、非行の態様もきわめて悪質であると言わねばならない。

ところで少年は、昭和五二年一〇月、道路交通法違反事件(無免許)で審判不開始、昭和五三年九月、道路交通法違反事件(無免許)、昭和五四年一月毒物及び劇物取締法違反事件でそれぞれ不処分決定を受けた後、同年一一月、道路交通法違反事件(無免許)で保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受け、保護観察官及び保護司の指導を受けてきたものでありながら、再び上記のように同種の非行をくりかえしたものであつて、少年に対しては、道路交通法のみならず、まず、法律・社会規範全般を守る態度・意識を身につけさせる必要がある。

少年は、知能は準普通域(IQ=八五)であるが、自己の欲求を阻止する状態に対する耐性が弱く、いまだに幼若な自己中心的な欲求を短絡的に実現したいとする意識が強く、家庭内でも、思いどおりにならないときは、その欲求阻止の状況や圧力の強弱によつて、母親に対する暴力など激しい感情暴発による暴行に出たり不機嫌に黙り込んで不満を隠したりため込んだりするなど、しつけの不充分な点や、自制心・自律心の形成が不充分なところがある。

少年の両親は、縫製業を自営し、家業は順調であるが、少年の兄弟は小学生(八歳)の妹一人であつて、少年は、妹との年齢差が大きいことなどから、いわば一人つ子として養育され、これがため、前述のように、しつけが不充分で、しばしば気に入らないことがあると母親に暴力をふるつたりし、このような少年の態度を、両親はうまく抑えることができないで現在に至つている。

したがつて、本件非行は上述のように交通事件であるが、これまで検討したような少年の生育歴・非行歴、性格及び家庭環境に鑑み、少年については一般事件と同様な生活指導が必要であると解され、この際一般短期処遇の勧告を付したうえで中等少年院に送致し、専門家の指導監督のもと自律心を培い、社会適応性をかん養し、再び非行に走ることを防止し、真に心身の健全な育成をはかることが相当であると判断される。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 北澤章功)

処遇勧告書〈省略〉

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